視察レポート2012

視察レポート

サラヤ100万人の手洗いプロジェクトは、3カ年の目標を立てた2010年からはじまり、今年で、3年目を迎えます。プロジェクトの進捗状況を確認するために。アフリカ・ウガンダの衛生の今を知るために。
2012年2月12日、SARAYA社長 更家悠介をはじめプロジェクトチームは、3度目の視察に訪れました。

Report13年目、成果は着実に。

今回、視察する場所は、アフリカ・ウガンダの南西部にあたります。視察1日目、プロジェクトチームは、ウガンダの首都カンパラを出発し、ルワンダに続くマサカロードを西に向かいました。首都カンパラでは雨が一カ月ふっていないそうで、空気が乾燥しているのが、土埃からもわかります。途中、赤道を越えて、数時間かけて、最初の目的地、ムバララ県に到着しました。

サラヤ100万人の手洗いプロジェクトでは、ユニセフ・ウガンダ事務所を通して、国が進める全国手洗いキャンペーンを支援。ここムバララ県でも、全国手洗いキャンペーンが積極的に進められています。保健査察官ウマールさんに、話を聞きました。
「2009年から、手洗いの普及率は8%から34%にまで増加。学校でも38%から47%になりました。100%の普及率を目指します。手洗いを当たり前のものにしてゆきたいと思います。」

プロジェクトは3年目を迎え、成果が上がってきているようです。

  • プロジェクトチームは、ウガンダ南西部へ
  • 小学校に設置されたTippy Tap

次に訪れたのは、ムバララ県キガアガ小学校です。小学生たちは、衛生をテーマにした歌とダンス、そして詩を披露してくれました。食事を取る部屋や、トイレの前に、簡易手洗い設備であるTippy Tapがつくられ、自然に使われている様子を見ることができました。
モギシャ・プロスパ先生は、「Tippy Tapがつくられる前と後では、コレラが減りました。もうコレラで休んでいる児童はいません」と笑顔で教えてくれました。

Report2保険センターでの課題

「SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト」が支援する全国手洗いキャンペーンでは、「手洗いアンバサダー」が、簡易手洗い設備であるTippy Tapのつくりかたや、正しい手洗いの方法を、村で伝えています。

ムバララ県の手洗いアンバサダーであるガバガンベ・エドワードさんに会いました。ガバガンベさんは、ボランティアで手洗いアンバサダーをしながら、同時に、Tippy Tapをつくる紐の販売をはじめ、これが手洗いアンバサダーに広まり、彼らのモチベーションアップにつながっているといいます。語り口からも熱意が伝わってきます。

「2人の手洗い大使をさらにトレーニングし、いくつかの村でTippy Tapの普及につとめています。実際に普及してみたら、下痢、腸チフスなどの病気が減り始めました。270世帯中、最初は0でしたが、今は265世帯にTippy Tapができました。」

  • 手洗いアンバサダー、右から2番目が
    ガバガンベさん
  • 村にできたTippy Tap

視察の途中、54の村をカバーする地域の保健センターに立ち寄りました。一見して、設備が足りていないことが分かります。助産師さんに話を聞くと、水がないので、産湯はつかっていないということでした。日本では当たり前の産湯さえない。ウガンダの衛生環境の厳しさを目の当たりにしました。
サラヤのアルコール消毒液を、サラヤの助産師さんに渡すと、よろこんでもらえました。保健センターでの衛生環境の向上が、次の課題の一つだと、サラヤチームは感じています。

  • 保健センターの助産師さんたち。
  • 質素な保健センター、アルコール消毒液は
    使われていない

Report3活躍する手洗いアンバサダー。広まるTippy Tap

視察2日目は、同じくウガンダの南西部に位置するントゥガモ県へ。保健センターに立ち寄ると、ちょうど赤ちゃんを連れたお母さんたちが集まっていました。生後3カ月のアリチルズちゃんを連れたノワマニャさん(20)は、手洗いをきちんと続けていることを話してくれました。

「家にTippy Tapはあります。手洗いアンバサダーの方が家まで来て、指導してくれました。使い方も教わりました。トイレの後、食事の前に使っています。おっぱいをあげる前にはおっぱいも洗うようにしています」

100万人の手洗いプロジェクトの目標の一つは、「正しい手洗いをウガンダの母親に伝えること」。プロジェクトの成果をお母さんたちの生の声で知ることができました。

  • ノワマニャさんとアリチルズちゃん
  • 手洗いアンバサダーによる、手洗いの
    指導の様子

ウガンダの南西部は、田舎ののどかさを感じる場所。みんな、素朴で、まじめ。素直に手洗いの普及につとめていることが伝わってきました。

その後、同じくントゥガモ県のルウェニョニョージ村を訪れ、手洗いアンバサダーのひとり、ビアルガバ・ローレンスさん(29)に会いました。彼らが村の人々に呼びかけ、200世帯ある村のうち170世帯にTippy Tapができたといいます。手洗いアンバサダーに配られるマニュアルを見せてもらうと、Tippy Tapのつくりかた、手洗いの方法などが、詳しく書いてありました。

ビアルガバさんといっしょに、Tippy Tapのある一軒の家を訪れました。お父さんにTippy Tapをつくった感想を聞くと、「Tippy Tapができて、とても幸せだ。この家にあるTippy Tapは、この村では最初につくられたうちの一つで、周りに住んでいる人にもつくるようにすすめたんだ。家族でつくった、大切なTippy Tapだ」と笑顔で答えてくれました。

ふと、Tippyという響きとHappyという響きが似ていることに気付きました。

  • 手洗いアンバサダーのビアルガバさん、
    マニュアルを手に
  • Tippy Tapができた家で

Report4都市部の課題。この国の手洗いは、まだまだ、これから。

視察3日目、プロジェクトチームは、ウガンダの南西部から、首都カンパラに戻り、市街地での成果を視察するために、カンパラ市内に赴きました。カンパラ市内の手洗いアンバサダー・イスマイルさんは、都市部での活動の難しさをこう語ります。

「自分の仕事を終えてから空いた時間で手洗い大使の活動をボランティアとしてやっています。自分のモチベーションは、やはりこの地域の人びとの生活の向上に貢献したい、良くしたいという思いです。ですが、都市での活動は、田舎よりも大変。Tippy Tapを置く場所もありません。すぐに破壊され、盗まれます。またスラム街は人の入れ替わりが多く、手洗いの定着が難しいです」

プロジェクトチームは、カンパラ市内のスラム街を訪れました。このスラム街に住む、手洗いアンバサダーの女性は、Tippy Tapはつくっても、壊されてしまうと嘆きます。
衛生環境の悪いこうした地域では、病気は蔓延しやすく、手洗いは命にかかわるもの。プロジェクトは、南西部の農村では大きな成果をあげていましたが、こうした都市部では、まだまだ、衛生の問題を抱えていることを知り、さらなる手洗いの啓発の必要性を、強く感じました。

この日は最後に、ユニセフ・ウガンダ事務所にてミーティング。3日間の視察を振り返ると同時に、ユニセフとサラヤのパートナーシップの成果を改めて確認しました。

ユニセフ・ウガンダ事務所でのミーティング風景

Report5SARAYA EAST AFRICAによる衛生事業も、スタート。

プロジェクトチームには、今回ウガンダを訪れた、もうひとつの目的がありました。

サラヤは、この「SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト」がきっかけとなり、現地法人SARAYA EAST AFRICAを昨年設立。ウガンダでの視察を重ねていくうちに、特に、病院におけるアルコールによる手指消毒の必要性を強く感じ、事業を通した衛生環境の改善に乗り出したのです。

視察4日目、サラヤ社長更家悠介と、SARAYA EAST AFRICA社長である宮本和昌による、SARAYA EAST AFRICAの本格活動に向けた打ち合わせが行われました。

  • SARAYA EAST AFRICA本格稼働へ
  • SARAYA EAST AFRICAオフィスの
    様子

現在は、事業はまだリサーチ段階ですが、エンテベ近くの病院では、テスト的にアルコール消毒液を置いています。実際に、お医者さんから話を聞くと、役に立っているという反応で、強い手応えを感じました。
ユニセフを通じた「SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト」と、サラヤ自体の衛生事業を組み合わせた、持続可能な社会貢献型企業のモデルへ。

「SARAYA 100万人の手洗いプロジェクト」からはじまったウガンダでのサラヤの活動は、3年目、新しい大きな挑戦のときを迎えていました。

  • エンテベ近くの病院にて
  • アルコール消毒液をテスト中

Report6視察を終えて

SARAYA社長 更家悠介

100万人の手洗いプロジェクトは3年目を迎えました。3年かけて、ウガンダの各地を訪れましたが、手洗いの意識が徐々に浸透しているのを感じています。視察を通じて、小学校、村のヘルスセンター、お母さんがいらっしゃるマタニティーセンターでも、手洗いが普及したことを確認し、うれしく思いました。
さらに、サラヤでは、SARAYA EAST AFRICAという会社もつくりましたので、より持続可能な事業という形でも、ウガンダの衛生環境の向上に、チャレンジしていきたいと考えています。現地のさまざまな方とパートナーを組みながら、現地に溶け込みながら、サラヤとして、この衛生事業が、さらに発展していくことを願っています。
私たちのこのチャレンジが、本当に実のある形になるまで、がんばっていきたいと思っています。みなさまの応援、ご協力に心から感謝いたします。

SARAYA EAST AFRICA社長
宮本和昌

プロジェクトも3年目を迎えて、今回訪れた村では、各手洗いアンバサダーのみなさんが独自に工夫を重ねて、それぞれの地域の実情に即した方法で、手洗いの普及を行っていました。プロジェクトの有用性、手洗いがいかに普及しているかというのを実際に見ることができた非常に有意義な視察だったと思います。
ただ、これで、ウガンダの衛生の問題がすべて解決したということではありません。SARAYA EAST AFRICAとして、今後、さらなる衛生環境の改善に、事業としてお手伝いしていけたらと考えています。

SARAYA広報宣伝部部長 代島裕世

3年目の視察を終えました。
プロジェクトの成果として、学校での手洗いの意識の向上を見てとることができました。ただ、保健センターを回ったところ、保健センターに、全くアルコール消毒剤がなく、医療の現場での、衛生環境の向上の必要性を強く感じました。
Tippy Tapの手洗いはもちろん、その次の、アルコール消毒剤を普及させる、という事業展開を、これから広げていきたいと考えています。
今、ウガンダは、次の高度成長に入る段階を迎えようとしています。私たちも、それに見合った、貢献をしていけたらと考えています。引き続き、サラヤの活動に応援よろしくお願いいたします。

SARAYAプロモーション戦略室室長
竹谷健太朗

今回の視察では手洗い設備(Tippy Tap)を子供たちはパフォーマンス、イベントとしてではなく本当に使っているのか!? を知りたく、遠〜くの方からじっと眺めているとトイレから出てきた小さな子どもが、一人でちゃんと手を洗っていたんです!モデル地区ではしっかりと手洗いが習慣化されてきたことを実感。ウガンダでの衛生観念をSARAYA EAST AFRICAで普及していきたいと思います。病は口から、口へは手から。

SARAYA海外事業部営業管理部部長
北條健生

今回、ユニセフといっしょに進めている100万人の手洗いプロジェクトに続いて、SARAYA EAST AFRICAの活動が本格スタートするということで、昨年に引き続いて、2回目の現地入りをしました。
ユニセフとのプロジェクトは、小学校と地域コミュニティの衛生環境の底上げを目的としていますが、SARAYA EAST AFRICAでは、より高度な衛生環境が求められる病院を対象に、サラヤの培ってきたアルコール消毒の技術を活かして、アルコール消毒の普及を目指していきます。これから、ウガンダの関係各機関を回りながら、SARAYA EAST AFRICA宮本社長とともに、できるかぎり、ウガンダの衛生環境改善に貢献していきたいと思います。

SARAYA海外事業部 田中秀一

今年初めてウガンダを訪れ、現地の病院などを視察致しましたが、先進国には無い様々な問題を抱えている事を痛感しました。サラヤが今まで日本を始めとした様々な国で培ってきたノウハウを活かし、サラヤイーストアフリカがウガンダの衛生・環境・健康改善に持続可能な形で貢献していけるよう 全力でサポートしていきたいと思います。

SARAYA研究調査員 中西宣夫

昔、長く旅をしていたころから、憧れつつも訪問できなかったアフリカは、その後かかわるようになった国際協力という分野でもよく語られる地域で、ずっと関心を持っていました。そのアフリカにサラヤが乗出すと聞いたとき、私はすぐにでも現地に飛んでいく勢いで情報収集に奔走しました。対象国をウガンダに決め、初めて訪れたのが2010年。以来、訪問を重ねるごとにその魅力に強く引き付けられています。アフリカは貧困、紛争、病気など暗いイメージばかりが強調されますが、実は私はいつも逆に元気をもらって帰ってきています。社会問題の解決、事業としての成功が第一義ですが、ウガンダの魅力を日本に伝えることも自分の重要な仕事と考えています。

日本ユニセフ協会 鈴木有紀子

3年目にして初めて視察に同行させていただくことができました。サラヤさんの魅力的なチームの皆さんとご一緒できるとあって、期待でいっぱいになりながら訪れたウガンダ。乾季とはいえ緑にあふれ、これ以上ないほど心地のよい風が吹いていました。スーダン・ダルフールからウガンダへ異動したというユニセフの担当スタッフも「ここは作物を植えれば育ってゆく、そんな土地はなかなかない。素晴らしい」とその豊かさをたたえていました。
出会う子どもたちもたくさんの笑顔を見せてくれました。楽しそうに寄ってきては自慢げに学校のノートを見せてくれる子。緊張しながらも自分たちの学校Tippy Tapを一生懸命に紹介してくれる子。微笑ましく、そしてみな愛おしく、豊かな未来を祈らずにはいられません。
一方、やはりどこででも貧しさが目につきました。バナナなど豊かなプランテーションの広がる景色から幼い子どもたちに目を移すと、その体型から明らかに慢性的な栄養不良がうかがえました。半数以上は裸足で、擦り切れてドロドロの大人サイズのTシャツを1枚かぶっただけ。子どもに水浴びをさせられるほど十分な水を手に入れることはかなり大変なことのようでした。
こうしたなか、手洗いに関する人びとの意識が変わりつつあるということは、さらに大きな変化のきっかけになり得るのではないかという思いがよぎりました。人はだれしも、習慣を変えたり、新たな行動を取り始めたりすることは難しいものです。しかしプロジェクトの対象地域では手洗いアンバサダーなどの熱心な活動が実り、特に母親や子どもたちが実際に行動を変え始めていました。何かをひとつ変えることができた人は、次に何を変えればよいのかということを追い求めはじめるのではないだろうか。子どもを洗うためには、栄養不良を防ぐためには...。手洗いがきっかけとなってそんな良い循環が生まれたら素晴らしいと思います。
そして、サラヤさんが現地法人を立ち上げられ、本腰を入れてウガンダや周辺地域の衛生問題の解決に長く関わってゆこうという姿勢を明確にされたことも、多くの人びとを勇気づけるものと思います。こうした取り組みがユニセフへの支援をきっかけとして日本の企業から生まれたことをうれしく感じています。
手洗いの普及もこれからが本番です。その成果を長く見守ってゆきたいと心から思いました。